• NOVELS書き下ろし小説

  • 【3】初教練

     神暦十七年九月二日は土曜日。週休二日制の学校なら休みだが、富士アカデミーでは入学二日目から早速教練が始まった。
     元々世界各地の「アカデミー」は曜日に関係無く運用されている。休養日は教練の進捗次第だ。新入生もそこは心得ていて、彼女たちに戸惑いは見られない。ただ、初日からいきなり神鎧を装着するよう指示されたのは、多くの新入生にとって予想外だったようだ。
    「招喚器の使い方は分かりましたね? それではチームに分かれて、神鎧を装着してください」
     入門編的な技術だからだろうか。教練の指導に当たっているディバイノイドは一人。昨日荒士が聞いた話が事実なら――嘘を吐く理由は全く無い――『白百合』教官は複数名存在するはずだが、今新入生の前に出てきているのは一人だけだ。
     その白百合は新入生全員を普通の、、、屋外演習場に集めて神鎧コネクターの説明を行い、理解できたかどうか問うこともせずに神鎧を装着するよう指示した。
     整列していた候補生がチームごとにまとまって演習場の、圧し固めた砂のグラウンドに広がる。荒士も他の候補生と同様に、同じチームのメンバーに合流した。
     実を言えば、荒士はまだ自分のチームメイトである三人の少女と直接顔を合わせていない。入学式の後、白百合に呼び出された所為でタイミングを失してしまったのである。
     候補生同士が顔を合わせる機会は、態々相手の部屋を訪れるのでない限り、教練中を除けば食事時のみ。その食事も一斉に済ませることを強制されていない為、タイミングが合わなければそれまでだった。
     他の三人は入学式直後の身体測定を一緒に受けているはずだし、雰囲気から察するに昨日の時点である程度親交を深めているに違いない。これから少なくとも一年は一緒にやっていく相手だ。自己紹介くらいは自分からすべきだと荒士にも分かっていた。
     しかし荒士は知らない女子に平気で話し掛けられるタイプではなかった。中々声を掛けるタイミングを掴めずに、彼は途方に暮れた。
     それに自己紹介の後、何を話せば良いのか分からない。何といっても相手は女子三人で、男子は彼一人なのだ。話し掛けるのを尻込みしても、意気地無しと誹るのは酷というものだろう。……と、彼は心の中で自己弁護を完成させた。
    (今日は神鎧を呼び出すだけだ。特に連携や協力が求められているわけじゃない)
    (今は取り敢えず、課題を終わらせよう)
     荒士は情けなくも、何の解決にもならない先送りを決意した。そして自分のヘタレ具合から目を背けて、教練の課題を終わらせるべく神鎧コネクターに人差し指を近付けた。
    「新島君」
     しかし右手がチョーカーのクリスタルに触れる直前、荒士の耳に自分の名を呼ぶ声が届く。
     彼は神鎧の招喚を中断し、手と視線を下げた。その声が彼の目線より下から聞こえてきたからだ。
     荒士の顎くらいの高さから、おっとりとした印象の少女が彼を見上げていた。荒士の身長が百七十センチ台半ばだから、百六十センチに少し足りない程度か。
     目が覚めるような美少女ではないが、一緒にいて癒されるタイプだ。
    「アラシマ君、で間違っていませんよね?」
     荒士が「ああ」と頷くのを見て、少女は安堵が込められた笑みを浮かべた。
    「私は新島君と同じチームの朱鷺あけさぎ幸織さおりです。よろしくお願いします」
    「新島荒士だ。こちらこそよろしく頼む」
     荒士はぶっきらぼうな口調で応じたが、これは初対面の女の子相手に気恥ずかしさを覚えていた為だった。幸織のことを鬱陶しいと感じたわけではない。むしろ、その逆だ。幸織がきっかけを作ってくれたことに、荒士は本気で「助かった」と感謝を覚えていた。
    「こちらの彼女はイーダ・リンドグレーン。そしてこの子はミラ・デ・フリースです」
     幸織の言葉を受けて、ダークブロンドの髪をショートにした少女が荒士の前に立つ。目線の高さが荒士とほとんど変わらない彼女の瞳は、鮮やかな青だった。
    「イーダ・リンドグレーンだ。イーダと呼んでくれ」
    「新島荒士だ。だったら俺のことも荒士で良い」
     イーダが右手を差し出してきたので、荒士も右手を伸ばして握り返す。
     ところで、二人が喋っているのは同じ言語ではない。荒士は日本語を、イーダは母国語であるスウェーデン語で話している。それで意思疎通ができるのは、言語中枢に干渉して聴覚が捉えた言語を脳内で自動的に母国語へ変換するエネルギーフィールドにアカデミーが覆われているからだ。
     神々が支配する世界には『神定言語』という共通語リングアフランカがあり、それをこの世界の、、、、、地球人用にアレンジした神定言語の現地バージョン『リングアーシア』も作られている。
     だが自動翻訳機能の方が便利で、人間同士の会話にリングアーシアが使われるのは希だった。
     アカデミーの外でも自動翻訳の個人用フィールドを発生させるワイヤレスイヤホンサイズの端末が、代行局から低価格で供給されているし、神鎧には自動翻訳機能がデフォルトで備わっている。
     一応日本でもリングアーシアは日本語、英語と共に小学校から必修科目になっている。しかし一般社会では、まだまだ英語が優勢だ。
     これは日本だけの事情ではない。リングアーシアを学びながら異言語民族との意思疎通に英語を使う傾向は、世界各地で見られる。代行局関係の用語に英語が使われていることにも、それが示されていた。
     ――閑話休題――。
     イーダとの握手が終わると、今度は赤毛の少女が荒士に手を差し出した。彼女もイーダ程ではないが、背が高い。大体、百七十センチくらいはあるだろう。
    「ミラ・デ・フリースよ。ミラって呼んでね」
     ただ、印象は随分違う。クールなイメージのイーダに対して、緑の瞳のミラは人懐こい感じだ。もっともそれは、あくまでも第一印象にすぎない。荒士は自分の「女性を見る目」を過信していなかった。
    「新島荒士だ。荒士と呼んでくれ。よろしく頼む」
     ミラとも握手を交わした後、荒士は謝罪の感情を込めた声と共に、チームメイトに軽く頭を下げた。
    「俺の所為で余計な時間を取らせて悪かった。早速、課題を始めよう」
    「そうだな。余計とは思わないが、荒士が言うように課題に取り掛かろう」
     彼の言葉に、イーダがすぐに応じた。
     周りを見れば、既に六、七人が神鎧の装着を終えている。荒士たち四人は特に合図を交わすことなく、同時に神鎧コネクターの宝珠に指で触れた。
     クリスタル状の宝珠に指で触れ、心の中で神鎧に呼び掛ける。自分が神鎧を装着した姿を念じる。コネクターの使い方はそれだけだ。装着プロセスを象徴的に表現する自分なりのキーワードを設定し心の中で、あるいは声に出して唱えるのも効果的だ、と教官の白百合は説明した。
     荒士は十六歳。既に十四歳前後で罹患すると言われている少年的な遊び心は卒業している。むしろそうしたものに、過剰な忌避感を覚える年頃になっていた。彼は奇を衒ったキーワードを作ったりせず単純に「神鎧装着」というフレーズを使うと決めていた。
     成功のイメージはできている。何故か「失敗するかも」とは思わなかった。
    (神鎧装着)
     荒士は心の中で静かに唱え、神鎧を身に着けた自分の姿を思い描く。
     変化はあっけなく訪れた。
     全身にジンワリと汗ばむ程の熱が生じる。頭、胸、腕、腰、足が特に熱い。
     熱が光に変わる。
     光はエナメル光沢の白いボディスーツと銀色の装甲に換わった。
     ボディスーツは全身を覆い、装甲は特に強い熱を感じた部分に生じている。
     装甲は「金属のような物」でできていた。
     この「金属のような物」が金属ではなく、それどころか普通の意味での物質ですらないことを、荒士は事前学習用デバイスで学んで、既に知っている。
     その知識が今、実感を伴う理解となった。それは、彼だけではない。一度で神鎧の装着に成功した「感度」の高い候補生は、明確にか漠然とかの違いはあっても「神々の鎧」の本質を頭ではなく心で理解していた。
     神鎧の構成素材は『エネリアル』。純粋エネルギーを固定して創り出した疑似物質だ。「一時的に半物質化したエネルギー」とも言える。この素材に装着者の想念力サイキツク・フォース――イメージ力と言い換えても良い――で武具としての形を与えたものが神鎧を始めとする神々の武具『エネリアルアーム』だった。
     荒士の肩と腕に、ごく軽い負荷が掛かった。具象化が完了したエネリアルに質量が生じたのだ。といっても、その重さは意識を向けていなければ気付かないほど軽い。多分、上下合わせて五百グラムもないだろう。
     重さが生じたのは装着が完了した証拠だ。荒士はそう判断して自分の身体を見下ろした。
     まず目に入ったのは分厚い胸甲。眉のすぐ上までを覆っている兜は、思ったより視界を妨げない。両目を完全に覆っているシールドは外から見た時は半透明だったが、着けてみると完全に透明だった。
     更に視線を下げる。
     肘まで覆う銀色のガントレット。腹部は白いボディスーツが剥き出しだ。そして金属質な外見の、短冊状のパーツを連ねた、腰から太ももまでを覆う装甲。
    (スカートみたいだな、これ……)
     ボディスーツが脚にほぼ密着しているので余計にそう見える。荒士は筋肉が付きにくい体質なので尚更だった。一見、未来的なレギンスの上から銀色のスカートを履いているようだ。
     まるで女装をしているようで、荒士は妙な気分になった。決して愉快とは言えない心境だ。
    「荒士は上手くできたみたいだな」
     自分が身に着けている神鎧を、選ばれた誇らしさと上手くできた安堵と微妙な苦さが複雑に入り交じった気持ちで見詰めていた荒士は、ついさっき聞いたばかりの声に顔を上げた。
     目の前にいたのは、彼が思い描いた女子に相違なかった。チームメイトのイーダ・リンドグレーンだ。
     銀色の鎧が彼女のスレンダーな身体に良く似合っている。北欧出身という先入観もあるのだろうが、その姿は戦乙女、ヴァルキリーの名称を自然に連想させるものだった。
     良く似合っている――荒士はそう思った。
    「イーダも上手くいって良かったな」
     だが彼の口から出たのは、少しぶっきらぼうなこのセリフだ。女子の服装を照れずに褒めるのは、荒士には少し、荷が重かった。
    「ああ、私は上手くできたんだが……」
     彼女の言葉に、グラウンドの同級生を見回す。現時点で神鎧の装着に成功しているのは約半数。彼のチームメイトを見ても、幸織とミラは苦戦している。
    「私はミラのアシストに回るから、荒士は幸織を助けてやってくれないか」
    「助けると言っても、何をすれば良いんだ?」
    「さあ? 私にも分からないが、何もしないよりは良いだろう」
    (そんなものかね?)
     イーダの答えは無責任にも思われるものだったが、女性心理は同じ女性の方が良く分かっているのだろう。何もしなくても、近くから見守っているだけで違うのかもしれない。
     荒士はそう考えて、幸織の側へ歩み寄った。
    「朱鷺」
    「あっ、新島君」
     宝珠に指を当てたまま、俯いて目を閉じ眉間に皺を寄せて「うーっ」と唸っていた幸織が、荒士の声に顔を上げる。
    「新島君はもうできたんですね。凄いなぁ」
     幸織の声には荒士に対する称賛と同じくらいの、自分を情けなく感じている成分が混じっているように、荒士には感じられた。
    「新島君、とっても似合ってます。凄く格好良いですよ。ジャンヌ・ダルクみたい」
     うっとりと見詰められた荒士は、思わず眉を顰めてしまう。
    「……いや、ジャンヌは女だろ。もしかして、オカマっぽい?」
     彼は声が険しくならないよう、意識しなければならなかった。
    「そ、そんなことないです! そういう意味じゃなくて!」
     幸織がわたわたと両手を振り、首を振る。
     その慌てようは、荒士に「悪気は無かったらしい」と思わせるものだった。
    「それより、課題を続けよう」
     荒士はそれ以上突っ込まず、チームメイトのアシストに意識を切り替えた。
    「はい……でも、何度やっても上手く行かなくて」
     幸織が肩を落とす。
    「新島君、何かコツのようなものはありませんか?」
    「コツと言われても、教官に言われたとおりのことしかしていないけど」
    「……やっぱりそうですか。私、才能が無いんでしょうか」
     荒士は他人事ながら、焦りを覚えた。
     アカデミーの候補生は代行官アルコーン直々に選んでいると言われている。自分の適性に疑問を懐く言葉は、それが単なる弱音であっても、代行官アルコーン
    の能力を疑うものとなる。
    「いや、それはないと思う」
     幸織を慰める言葉は、知らず知らず早口になっていた。
    「朱鷺も選ばれた候補生だ。できないはずはない。手順に誤解があるんじゃないかな」
    「誤解ですか?」
    「指示された手順を一つ一つ確認しながらやってみよう」
     幸織の指導に必要以上の熱が入っているのは「代行官アルコーンに目を付けられるのはまずい」という焦りが、知らず知らずの内に荒士を駆り立てているからだろう。
     代行官アルコーンは人間ではない。それどころか、地球人の持つ概念では生物ですらない。未知の金属と合成樹脂のように見える、、、、、、、素材で造られた機械頭脳だ。
     だが代行官アルコーンは機械仕掛けだから感情を持たない、とは断言できないのだ。神々に作られた神造、、知能は、無謬性を疑われて気を悪くするかもしれない。
    「まず、自分が神鎧を装着した姿をしっかりイメージする」
    「先にイメージするんですか? 教官はコネクターに触れながらイメージするように仰っていたと思いますが」
     荒士は軽く、頭を振った。
    「やってみて分かったけど、コネクターに装着の思念コマンドを送り込んでから装着が完了するまでの時間は極短い。あらかじめイメージを作っておかなければ、間に合わなくなる可能性が高いと思う」
     よく考えずに口にしたセリフだが、言い終わった後に荒士は「そういうことかもしれない」と改めて思った。
     初めて神鎧を身に着ける時は、その結果どういう姿になってどういう着心地がするか分からない。だから装着が成功したイメージを描くのに時間が掛かり、コネクターと神鎧の転送システム――正確に言えば、神鎧を形成するエネルギー物質化フィールドを投射するシステム――の接続時間内に間に合わない、つまりタイムアウトしてしまうのではないだろうか。
    「イメージ形成が間に合わないから、アーマーの装着に失敗するということですね。分かりました。やってみます」
     幸織が目を閉じて「イメージ、イメージ……」と小声で呟きながら、コネクターに指を近づける。
     しかしチョーカーにはまった虹色の宝珠に触れる直前で、幸織は動きを止め目を開けて荒士に助けを求める眼差しを向けた。
    「新島君……イメージが上手く描けません」
     幸織が放っておくと泣き出しそうな声で訴える。
    「一度、やってみてもらえませんか」
    「分かった」
     荒士はコネクターに指を当てて、心の中で「神鎧解除」と唱えた。
     銀色の装甲が霞となって消え、装甲のわずかな重みが無くなる。
     荒士が神鎧を脱いだ、、、のは、幸織が装着のプロセスを見たがっていると理解したからだ。
    (多分、朱鷺は装着に成功したシーンを見たいんだろうからな)
     装着後の姿をイメージするだけなら、成功した同期生が周りに何十人もいる。おそらく幸織は、成功のイメージを求めているのだ。――荒士はそう考えた。
    「まずアーマーを身に着けた自分の姿をイメージする」
    「はい」
     幸織が素直に頷く。
     だが当の荒士は、内心戸惑っていた。
     さっきはそれほど苦労せずに「神鎧を纏った自分」をイメージできたが、改めてイメージを描くとなると細部が気になってしまったのだ。
     具体的には、「女装に見えるのは嫌だな」と思ってしまったのである。
     彼が見たことのある、神鎧を装着した従神戦士の、、、、、姿は入学前に裏切り者から助けてもらった名月のものであり、候補生の鎧姿はチームメイトのイーダと入学式で見た真鶴のものだ。
     しかし彼女たちは一様に、装甲の上からでも分かる女性的な姿だった。
    (だからと言ってあの、邪神の戦士の真似なんてできないし……)
     自分を攫おうとした背神兵は男性的なフォルムだったが、アカデミーの候補生がその真似をするのはまずいだろう、と荒士は思った。
     とにかく、スカートに見えなければ良い。
     荒士はそう考えて、スカートに替わるイメージを頭の中で模索した。
     小さな頃から荒士はアウトドア派だった。いや、厳密には「アウトドア」ではないかもしれないが、片賀順充から教わる武術に打ち込んでいてテレビやゲームには余り興味を示さなかった。それでも学校の友達の影響で特撮やアニメは一通り知っている。
     神々による統治の影響は、この世界の子供向けコンテンツにも当然のように及んでいる。特に従神戦士の影響が大きかった。特撮番組やバトルもののアニメでは「鎧」をモチーフにしたものが多い。
     それらの創作物に、荒士は答えを求めた。
    (なんと言ったっけ……西洋鎧の下半身パーツ。太ももの外側と股間の急所を守るあれで、、、良いんじゃないか?)
     荒士が思い浮かべたのは日本甲冑の「草摺」に該当する西洋甲冑の「タセット」だ。タセットという名称は知らなくても、映像コンテンツの御蔭で形状は明確に思い描けた。
     彼の記憶に最も強い印象を残している、背神兵から自分を救ってくれた名月の神鎧姿をベースに、、、、、、、、、、、、アーマースカートだけをタセットに変えて……。
    (よしっ!)
     イメージをしっかり、、、、固めた荒士は、コネクターの宝珠に指先を当てた。
     心の中で「神鎧装着」と唱える。
     変化は先程よりも速やかに訪れた。
     気の所為か、荒士はさっきよりも全身を隙間無く、、、、、、、覆われているような感覚を覚える。
     その理由を探ろうと、彼は自分が纏っている神鎧を見下ろした。
    (スカートっぽいパーツはちゃんと変わっているな……。だが、何処かおかしくないか?)
     見下ろした自分の姿に、違和感が付き纏う。彼は自分の全身像に、、、、目を凝らした。
     微妙な違和感だが、自分の身体を包む装甲とボディスーツの輪郭が何となく女性的に感じられる。特に背中から見た、、、、、、腰から太ももに掛けてのラインが妙に曲線的だ。
    (――ちょっと待て。背中から?)
     違和感が荒士の意識を襲う。
     自分の姿を真後ろから見るのは、鏡を使っても難しい。何故、背中から見た自分の姿なんてもののイメージが脳裏に描かれたのだろうか。しかも、あんなにもハッキリと。
    「――わぁ!」
     しかし彼の疑念は、幸織が漏らした歓声によっていったん意識のフォーカスから外れた。
     神鎧を纏った荒士に向けられている幸織の表情は、神鎧装着の成功を称賛するものにしては少し浮かれ気味に見えた。
    「きれい……」
    (きれい?)
     幸織が漏らした一言を、荒士は自分の聞き間違えかと思った。
    「すごいですよ、新島君。さっきよりもっと美人さんです!」
    (「美人」だって?)
     しかしどうやら、聞き間違えではないらしい。だがそれはそれで、意味が分からない。
     荒士は不細工ではない。これは彼の主観だけではなく、陽湖と名月の姉妹も認めているし、中学校の同級生や後輩も同意見だ。
     しかし同時に、女子と見間違われるような美男子でもない。現に間違われた経験もない。半透明のシールドが付いた兜で顔が半分隠れているとはいえ、自分は「美人」と賞賛されるような外見ではないはずだ。
     疑問の嵐の中に再び違和感と、それに加えて不気味な不安感が湧き上がる。
     幸織が上げた歓声を聞いて、イーダとミラが寄ってきた。二人とも神鎧を纏っている。ミラも無事、装着できたようだ。
    「幸織、どうしたんだ?」
     幸織がまだ神鎧を装着していないのを見て、何かトラブルがあったのかと思ったのだろう。イーダが幸織に、心配そうな声で訊ねた。
    「あっ。イーダ、ミラ。見てください、新島君、すごいんですよ!」
     幸織の視線に導かれて、イーダとミラが荒士に目を向ける。
    「美人さんですよね!」
    「あらホント。ミステリアスな美女っぷりね、荒士。ちょっと自信なくしちゃいそう」
     ミラが本気か冗談か分かりにくい口調で荒士を褒める。――なお彼女は「ミステリアス」と英語で発音したのではなくオランダ語で喋ったのだが、荒士の意識内では「神秘的な」ではなく「ミステリアスな」と言葉ではなく意味で翻訳されていた。
     イーダの反応は幸織とミラの二人とは違った。
    「荒士……私の気の所為でなければ、少し背が縮んでいないか?」
    「えっ?」
     荒士がイーダを見返す。それで彼も気がついた。
     さっき、荒士とイーダの目線はほぼ同じ高さだった。もしかしたら荒士の方が一センチくらい高かったかもしれないが、その程度は誤差の範囲だ。
     しかし今は、イーダの目線の方が明らかに高い。大体五センチ前後の差はあるだろうか。今の荒士の目線は、ミラとほぼ同じだった。
     荒士は慌てて、自分の身体のあちこちを手で触ってみた。すぐに鎧が邪魔になると気付く。逆に言えば、触ってみるまでそれにも思い至らぬほど彼は動転していたのだろう。
     だがそれでも、大まかな体型は分かる。
     妙に腰がくびれている気がした。
     胸の感触は胸部装甲で確かめられないが、何となく膨らんでいるような気がする。
    「う、うわあぁぁぁ!」
     荒士の口からパニックが絶叫となって迸り出た。
    「なに? 何だこれ!? 何だこれはっ!」
    (まさか、まさか……女になってる!?)
    (F型が女性用だから!?)
    「新島候補生、どうかしましたか?」
     荒士の叫び声を聞いて、教官の白百合が駆け寄ってくる。
    「何があったのですか?」
     白百合が荒士に問い掛ける。
     しかしその声は、荒士の意識に届いていなかった。
    (どうすれば良い? どうすれば? 一体どうすれば?)
     荒士の心は唯それだけに占められている。
     彼が外部からのインプットを受け付けない状態だと気付いた白百合は、自分の目による――神々の端末であるディバイノイドの目による、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、診断に切り替えた。
    「これは!?」
     そして何が起こっているのか、すぐに理解した。
    「新島候補生、神鎧を解除しなさい!」
     ディバイノイドには人間のような感情は無いと考えられている。だがこの時、白百合はまるで人間のように狼狽していた。
    「新島候補生、聞こえないのですか?」
     白百合が切迫した声で呼び掛ける。だが、荒士は反応しない。
     自分の言葉が意識に届いていないと再確認した白百合は、黒光りする、金属というより黒曜石のような光沢の「銃」を何処からともなく取り出した。
     いや、正しくは「銃のような物」と表現すべきか。その物体には銃身もグリップもトリガーも備わっているが、銃口が無かった。銃口があるべき場所には、虹色の微かな光を放つ珠がはまっている。それは神鎧コネクターの宝珠と全く同じ物に見えた。
     白百合が荒士に「銃」を向ける。
     そして間を置かず、引鉄を引いた。
     変化はすぐに現れた。
     荒士の叫び声が止まる。
     彼は立ち続ける力を奪われたように、がっくりと両膝を突いた。
     異変に気付いて荒士たちに目を向けていた候補生の中には「麻痺銃パラライザー?」と考えた者もいたが、変化はそこで終わりではなかった。
     両膝を地面に付けて蹲っている体勢なので少し分かりにくかったが、荒士の身長と体型が瞬きする間に彼本来のものへと戻っていく。
     そして次の瞬間、荒士の身を包んでいた神鎧が消え失せた。
     その光景を見ていた候補生たちは理解した。白百合が使った「銃」は、装着している神鎧を強制的に解除する装置だった。
     強制解除はダメージを伴うのだろう。荒士が前のめりに倒れる。
     白百合があらかじめ呼んでいたのか、彼が倒れた直後、医療スタッフが車輪の無い、、、、、救急車で駆けつけた。街中で見るものよりコンパクトな車両だ。地上約数十センチの高さを、現代人類のテクノロジーを超えた技術で浮いている。
     医療スタッフは全員女性だったが、彼女たちは苦もなく荒士の身体を持ち上げて担架に乗せ救急車に運び入れた。救急車はすぐにアカデミーの医療棟へ向かった。

    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

     救急車に運び込まれた荒士は、意識を失っていなかった。
    「俺は……どうなったんですか?」
     救急車に最初から、、、、乗っていた白百合に、荒士は自分の状態について訊ねた。
     このディバイノイドは初教練を担当していた「白百合」とは別個体だったが、荒士はそれに気付いていなかった。
    「貴男は段階を跳び越えてしまったのですよ」
    「段階を……跳び越える?」
     荒士は気絶こそしていない。だが万全の状態とは程遠く、意識は朦朧として思考能力がまともに働いていない状態だった。
    「分かり易く言えばフライングですね」
    「フライング?」
     白百合は「分かり易く」と言ったが、荒士にとっては訳が分からない説明だった。
    「つまりですね……。本来踏むべきステップを跳ばしてしまった為に、貴男はペナルティを受けたのです」
    「ペナルティ……?」
    「ああ、ペナルティと言っても精神にも肉体にも後遺症は残りませんから、そこは心配しなくても良いですよ」
     ますます顔色が悪くなった荒士を、白百合は笑顔で宥めた。
    「俺の、身体は……」
    「身体が変わったように見えたのは錯覚です。神鎧が肉体に、、、悪影響を及ぼすことはありません」
     これを聞いてようやく安心したのか、荒士の表情から強張りが取れる。
     それとほぼ同時に、救急車が停まった。
    「医療棟に着きましたので続きは……」
     白百合が言い掛けたセリフを中断する。
     懸念が解消された荒士は、今度こそ意識を失っていた。

    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

     荒士が医務室に収容された直後、富士アカデミーの一室に五人のディバイノイドが集まった。
     全員が同じ背格好で良く似た外見だが、一組として同じ顔の者はいない。着ている物は黒のスリムパンツにワンピースにも見える裾丈の長いスタンドカラーのジャケット。この服装は教練の場で白百合が着ていた物と同じだが、ジャケットの色が一人一人違う。
     白、緑、赤、青、そして紫。彼女たちは各位階の教官だった。
     白のジャケットが第五位階の教官、『白百合』。
     緑のジャケットは第四位階の教官、『若葉わかば』。
     赤が第三位階の教官、『かえで』。
     青は第二位階の教官、『桔梗ききょう』。
     紫は第一位階の教官、『菖蒲あやめ』だ。
     彼女たちは肉体的に集まらなくても、代行官アルコーンの本体である巨大人工頭脳・オラクルブレインを介して意識で直接話し合える。しかし今回は各集団を――白百合なら同じ白百合、菖蒲なら同じ菖蒲という風に意識を共有している各グループを代表して意見を交わす為に集会の形式を取ったのだった。
    「新島候補生は教練初日、二回目の神鎧装着でSフェーズを展開しました」
     全員が円卓に着席してすぐ、白百合が何の前置きも無く報告書を読み上げるような口調で発言した。
    「毎年十人前後の候補生が初日にSフェーズを展開します。珍しい存在であることは確かですが、驚くべきこととまでは言えないでしょう」
     白百合の報告に、第四位階担当の若葉がそう返した。
    「十人前後というのは七つのアカデミー全てを合わせた数字です。一アカデミーに一人か二人と考えれば、十分希少価値があるのでは?」
     第三位階の教官である楓が若葉の指摘に反論する。
     ところで彼女たちが話題にしている『Sフェーズ』というのは『スペシャルフェーズ』の略で、神鎧の能力解放第三段階を指している。――何故英語なのかというと、この用語も地球人の代行局員が付けた名称を代行局全体が採用し、ディバイノイドもそれを使用しているという経緯があるからだ。
     神々の技術によって物質化したエネルギー『エネリアル』を想念力で制御し、鎧として具現化し装着する。これが第一段階『エレメンタルフェーズ』、略して『Eフェーズ』。新入生が今日、装着に成功した、、、、、、、のはこのエネリアルの鎧だ。
     ただしこのエネリアルの装甲は、神鎧の真価ではない。
     神鎧は次元の障壁を作り出し外部から完全に隔離された閉鎖亜空間――『個有空間』を作り出す。この個有空間内部は神鎧の装着者に最適な生存環境を作り出し一切の物理的なダメージを遮断する。この個有空間を維持する障壁、『次元装甲』を展開するのが神鎧の第二段階『ノーマルフェーズ』、略して『Nフェーズ』。
     そして第三段階『スペシャルフェーズ』――『Sフェーズ』は次元装甲に包まれた個有空間の、現実の空間に対する大きさや形状を自由に変える機能だ。
     個有空間の形状・サイズが変わっても、内部にいる者には影響がない。変化はあくまでも現実空間に対する個有空間の形状という相対的なものだからだ。
     ただNフェーズ、Sフェーズで次元装甲を展開した神鎧装着者の精神は、次元を超越するセンサーで現実の空間に自分が存在しているのと同じ感覚情報を受け取る。だから自分の身体も次元装甲の形状が変化した形・サイズに変身、、したかの如く知覚してしまう。
     荒士がパニックに陥ったのは、名月の外見を模倣して、、、、、、、、、、展開した次元装甲の形状を自分自身の肉体の形だと感じてしまった――勘違いしたからだった。
    「希少な才能であることに異論はありませんが、NフェーズもSフェーズも安定的に展開できなければ戦士として通用しません」
     この指摘は第二位階を担当する桔梗のもの。第二位階と認められる条件は「Sフェーズを安定して維持できること」だから、このような評価になるのはある意味で当然かもしれない。
    「その結論は性急すぎるでしょう。現首席の古都候補生は当アカデミーに留まらず全惑星的に見ても稀に見る俊英ですが、彼女でさえも初日にSフェーズを安定して維持することなどできませんでした」
     桔梗の発言を、第一位階担当の菖蒲が「急ぎすぎ」とたしなめる。
    「……新島候補生のデータが纏まったようですね」
     ここで、最初に発言したきり沈黙していた白百合が口を開いた。
    「皆さんの許にも届いていますか?」
     白百合の問い掛けに残る四人が頷く。オラクルブレインに直結しているディバイノイドは、情報機器を介さなくてもオラクルブレインのコントロール下にある機械との間で情報を直接授受できるのだった。
    「やはり、相当に偏った能力値と言えるでしょう」
     最初に桔梗が「思ったとおりです」と言いたげな口調で感想を口にする。
    「確かに安定性には欠けますが、この出力は注目に値するのでは?」
     否定的なニュアンスの桔梗に対して、楓がパワーを評価すべきと反論した。
    「各能力値の傾向はG型適合者のパターンに近いですね」
     若葉が個々の値ではなく、全体的な傾向に言及する。
    「確かに。瞬発力に優れ、持久力に難がある、ですか……。同じF型の戦士と共同で作戦行動を取る際に苦労するかもしれません。むしろ単独戦力、決戦兵力として使い道がありそうです」
     荒士を戦場に投入した場合の運用方法について、菖蒲がアイデアを述べる。
     しかしこれは、かなり気が早い意見だった。
    「長所も短所も現段階の評価値です」
     白百合が先走りを注意する。
    「新島候補生の問題点は、本人の耐久力を超えた出力を発揮してしまう点ではないでしょうか」
     その上で今、目を向けるべき問題点を指摘した。
    「そのとおりだと思います」
     この指摘に、真っ先に桔梗が頷いた。
    「同意します」
    「私もです」
     楓と若葉もこの点は異論が無いようだ。
    「具体的な対策についての意見は?」
     菖蒲のセリフは質問だった。教練を担当する白百合に、今後の方針を訊ねる。
    「異例ではありますが、新島候補生の神鎧の機能に制限を設けようと思います」
     白百合の回答は、考慮の時間を要しないものだった。
    「どのような制限ですか?」
    「Sフェーズの凍結を考えています。本件について皆さんの承認をいただきたいのですが」
     候補生の教練は基本的に各位階の担当教官に任せられているが、他の位階に影響がある異例の措置は各位階担当者と協議して決めることになっている。白百合がこの会議を招集したのは、この対策について同意を得る為だった。
     若葉、桔梗、菖蒲の視線が楓に集中する。Sフェーズを用いた訓練は第二位階が対象だが、第三位階から第二位階に進級する条件は「Sフェーズを安定的に展開できること」だ。よって、このフェーズの凍結で最も影響を受けるのは第三位階担当の楓だと言える。
    「現状ではやむを得ない措置だと考えます。ただ、凍結はできる限り早く解除すべきでしょう」
    「もちろんです。その様に指導します」
     楓のセリフに、白百合は「それは当然」とばかり頷いた。

    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

     荒士がアカデミーの医務室に運び込まれたのは午前九時半過ぎのこと。
     そして彼が目を覚ました時には、午後四時になろうかとしていた。
    「ここは、病院か……?」
     覚醒してすぐであるにも拘わらず、荒士の意識は、はっきりしていた。自分が寝ているベッドが白いカーテンで仕切られた狭いスペースに置かれていることから、ここが病室、またはそれに類する場所だと彼は推測した。
     荒士がベッドの上で身体を起こす。その音を聞きつけたのだろうか。カーテンが小さく開けられ、若い女性が顔をのぞかせた。
    「目が覚めたのね。良かった」
     彼女は明るい声でそう言いながら、カーテンを開け放す。顔だけ見えていたその女性は、詰め襟ダブルの白衣を着ていた。残念ながらボトムスは、スカートではなくズボンタイプだ。
     アカデミーの職員であるなら二十歳未満ということはないはずだが、高校生でも通用しそうなルックスの美少女だった。
    「意識はハッキリしている? 試しに、自分の名前と今日の日付を言ってみて」
    「新島荒士。今日は神暦十七年九月二日です」
     白衣の女性の質問に、荒士は考える時間を挟まず答えた。
    「……まだ日付は変わっていませんよね?」
     その上で、少し不安げな表情で問い返す。
    「ええ。今は九月二日の午後三時五十……いえ、四時になったわ」
     白衣の女性は腕時計を見ながらそう答えた。
    「四時……。俺は六時間半も気を失っていたんですか……」
     時刻を聞いて、荒士はショックを受けたようだ。
    「正確に言えば、気を失っていたのは五分程度ね。目が覚めなかったのは、精神が疲労を回復する為の睡眠を必要としていたから。つまり眠っていただけ。心配しなくても大丈夫よ」
     荒士がホッと胸を撫で下ろす。長時間の失神は脳に後遺症を残すリスクがあると何処かで耳にしたのを彼は覚えていた。だから気を失ってから六時間以上も経っていると聞いて、後遺症が心配になっていたのだ。
    「安心した?」
    「はい。あの、貴女はドクターですか?」
     荒士はようやく、この女性が何者なのか気に掛ける余裕を得た。
    「いいえ。私は富士アカデミーの医務室職員よ。医師でも看護師でもないけど、代行局施設内では限定的な医療行為を許可されているの。名前は鹿間多かまたひかり
     荒士の問い掛けに、光は親しみを込めた笑顔で答える。親に言われたからとかは関係なく、それは彼女の自然な表情だった。
    「鹿間多さん、ですね。ずっと付いていてくださったんですか?」
    「ええ。でも、気にしなくて良いのよ。これが私の仕事だから」
    「いえ。それでも、ありがとうございました」
     荒士がベッドから両足を下ろし、両手を膝の上に置いて一礼する。
     その年齢に似合わぬ誠実な態度は光に好感を懐かせるものだった。無論そんなことで好意、、
    を寄せる程、彼女はお手軽ではない。男とか女とか年下とか年上とかに関係なく、荒士が取った行動は光にとって、人として、、、、好感を持てるものだった。
     無意識に、光の口元がほころぶ。
     年上の美少女、、、が浮かべた裏表のない笑みに、荒士の心拍が少し加速する。また彼は、自分の顔に少々の熱を感じた。
    「もう大丈夫だと思うけど、一応精神波を測っておくわね」
     幸い光に、荒士の変化に気付いた様子は無い。ロードワークを欠かさない彼の肌は、自然な色合いで日に焼けている。だから、多少血流が増してもそれが顔の色に反映しない。
    「精神波を測る?」
     荒士が口にした鸚鵡おうむ返しの質問は動揺を誤魔化す為のものだったのだが、光はそれを純粋な疑問と受け取った。
    「神々から賜った代行局の技術よ。精神の健康状態、、、、、、、を数値と波形で表現できるの」
    「そんな医療機器が……」
     荒士は素直に感心した。
     その純な反応がまた好ましかったのか、光はクスッと、蠱惑的に笑った。
     今度こそ荒士の顔に朱が差す。
     幸い光はちょうどその時、測定器を準備するため彼に背を向けていた。
     荒士が両手で自分の頬を張る。
     パチンというその音に、光が驚いて振り返った。
    「ど、どうしたの?」
    「いえ、何でも。眠気を追い出しただけです」
    「えっ、大丈夫? 意識がぼやけてたりはしないよね?」
     そう言いながら、光は荒士の目をのぞき込んだ。
     彼女の童顔ではあるが整った、ハッキリ言って荒士の好みのタイプの顔がいきなり、その気になればキスも可能な間合いに近づく。
     だが今回は、動揺を何とか抑え込むことに荒士は成功した。

     光はハンディ型金属探知機のような器具を荒士の頭に沿って動かし、キャスター付きサイドテーブルの上の小型モニターの画面を何度か切り替え「よし」という感じで小さく頷いた。
    「精神波の揺らぎは正常な範囲に収まっているわ。これなら大丈夫。何の心配もありません」
     最後の一言だけ、光は女医っぽく、あるいは看護師っぽく締め括った。
    「そうですか。……結局、何だったんですか?」
    「何だった、って?」
     光にとぼけている様子は無い。荒士の質問が抽象的すぎて、本気で理解できなかったのだ。
    「何故俺は気絶して、六時間以上も眠り続けなければならないほど消耗してしまったんですか?」
    「ああ、そのこと。教官から何も説明されていないの?」
    「一言、聞いたような気もしますが……」
     荒士が眉間に皺を寄せて首を捻る。
    「内容を思い出せません」
     悔しそうに答える荒士。正確に言えば単に思い出せないのではなく、意味を理解できなかったから記憶に残らなかったのだが、どちらにしても彼にとっては無念なことだろう。
    「新島君は神鎧が何をエネルギー源にして具象化しているか、覚えている、、、、、?」
     光が「知っている?」でも「分かる?」でもなく「覚えている?」と訊ねたのは、それが入学準備期間の事前学習で学習用端末を通して教えられる知識だからだ。
     無論荒士は覚えていた。
    「はい。神鎧の素材となるエネリアルと、その原料となるエネルギーは代行局をはじめとする神々の施設から供給されますが、形状の維持には装着者の精神エネルギーを消費します」
     荒士は教師の口頭試問に答えるような口調で光の質問に回答した。実際、荒士の心境は教師を前にした生徒のものだったに違いない。教師にしては、光の外見は若すぎるかもしれないが。
    「そのとおり。そしてこれは、事前学習に含まれていないことなのだけど」
     教官でもないのに新たな知識を授けようとしている光を、荒士は息を詰めて凝視する。
    「神鎧には三つのフェーズがあるの」
    「フェーズ、ですか?」
    「段階と表現した方が良いかしら。第一がEフェーズ。具象化した神鎧を装着する段階で、あなたたち新入生に今日与えられた本来の、、、課題がこれ」
     荒士は無言の眼差しで、光に続きを促した。
    「第二段階がNフェーズ。詳しい説明は省かせてもらうけど、次元装甲を展開するフェーズよ」
    「次元装甲……」
     噛み締めるように、荒士が呟く。
    「そして第三段階のSフェーズは、次元装甲の大きさと形状を自由に変更するフェーズ。この変化は装甲外部に対するもので、外から見ると大きさも姿も別の存在に見えるけど、中にいる装着者には影響しない。新島君は意図せずに、このSフェーズを展開してしまったのね」
    「俺が、そんなことを……」
    「自分の体型とは違う姿で神鎧を装着しようと念じたりしなかった? それも、余程強く」
    「…………」
     荒士には心当たりがあった。あの時荒士は、背神兵と戦っていた名月の姿をモデルにして、それに自分でアレンジを加えた装甲を着せた姿を強く思い描いていた。
    「フェーズが上がるに従って、神鎧はより多くの精神エネルギーを消費する」
    「……そのエネルギー消費に、俺の精神は耐えられなかったということですか」
    「精神エネルギーは睡眠によって回復する。回復可能な範囲内ならね。幸い新島君の場合は、この許容範囲に収まっていたから大事には至らなかったのよ」
    「結構危ない状況だったんですね……」
     言葉にすることでリスクを実感したのか、荒士がブルッと背筋を震わせる。
    「運が良かったのは間違いないと思う。神鎧のコンディションは代行局が一人一人フォローしているから最悪の事態にはならないはずだけど」
    「最悪って、死にはしないということですか?」
     人間、死ななければ良いというものではない。反射的にそう考えた荒士の声には、小さな棘が生えていた。
    「落ち着いて。そこまで極端な話じゃないから」
     光が穏やかな声で荒士をなだめる。
    「戦場では別だけど、訓練で命が危険にさらされることはないし、精神が壊れてしまうこともない。最悪でも神鎧が使えなくなるくらいよ」
    「失敗しても……普通に生活する分には、支障無いんですね?」
     荒士が光に、恐る恐る訊ねる。
    「ええ、そうよ。神々の技術を信じて」
     光は確かな自信を湛えた笑顔で荒士に向かって頷いた。
     それでようやく、荒士の顔から不安の色が消え去った。

    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

     検査の結果「異状無し」のお墨付きを与えられた荒士は、入院を免れ寮の部屋に戻された。
     そして今、彼が制服を私服に着替えた直後、部屋のドアがノックされた。
     荒士が「どうぞ」と応えた直後、扉が開く。
    「お邪魔するよ」
     先頭を切って入室したのはダークブロンドに青い瞳のイーダ・リンドグレーン。その背後にミラ・デ・フリースと朱鷺幸織も続いている。チームメイト全員でお見舞いに――と言うか、様子を見に来てくれたようだ。
    「荒士、良かったわね。何も異状は無かったんでしょう?」
     ミラが明るい声で荒士に話し掛け、
    「本当に良かったです。ホッとしました」
     幸織はセリフどおりの声音でそう言い、実際に胸を撫で下ろす仕草を見せた。
    「悪い。心配を掛けたみたいだな」
    「荒士は何も悪くないが、心配はしたぞ。何せ教官から面会謝絶の指示が出ていたから」
    「そうか。すまない」
     イーダの言葉は、荒士にとって意外なものだった。
     気絶していた時間は五分程度で、後は眠っていただけだと光からは聞いている。
     眠っているだけで面会謝絶は、大袈裟な気がした。
     もっとも眠っているところに来られても対応できないし、精神力を回復する為に睡眠が必要とのことだったから、起こさないように面会をシャットアウトしたというのも十分考えられる。
    「イーダも言いましたが、新島君が謝る必要は無いんですよ」
     荒士の考察は、幸織のセリフで中断を余儀なくされた。
    「いや、心配を掛けたのは事実だ」
     深刻になりすぎないように、荒士は作り笑いを浮かべながら軽く頭を振った。
    「それで、何が原因だったの?」
     ミラの質問にも多分、雰囲気が重くなるのを避ける意図があったと思われる。
    「医務室の人の話では、神鎧の機能を暴走させたことで過度の疲労に襲われたらしい」
    「医務室の人? お医者様ですか?」
     幸織が小首を傾げて問い掛ける。「医務室の人」という表現に違和感を覚えたようだ。
    「本人は医師でも看護師でもないと言っていたな。神々のテクノロジーを使えば資格が無くても医者と同じことができるらしい」
    「へぇー。神々の技術って、本当に凄いんですね」
     今更な感想を幸織が述べる。
    「それで、神鎧の暴走とは?」
     そこへイーダが、より重要度の高い疑問で割り込んだ。
    「んっ? ああ、何でも俺たちのレベルでは使えない機能を、偶然起動してしまったらしい」
    「セーフティが働かなかったのか?」
     荒士の答えを聞いて、イーダが眉を顰める。
    「多分、セーフティが効いたから過労くらいですんだんだと思う」
     荒士は彼女をなだめるように、首を横に振りながら答えた。
    「本当ならもっと重態だったと?」
     しかしイーダはまだ、納得しかねる様子だった。
    「そんなことは言われなかったが、神鎧は俺たち地球人にとって理解が及ばないオーバーテクノロジーの産物だ。あれこれ考えても想像することしかできない。だったら自分から疑心暗鬼に陥るより、安全だと信じておいた方が健康的じゃないか?」
    「健康的……。そうだな」
     イーダはそれ以上、この件に関して質問を重ねなかった。
     荒士は光から口止めされているわけではないが、神鎧のフェーズに関する詳細を自分の口から話すべきではないと自ら考えている。そんな彼にとって神鎧の機能について追及されなかったのは、正直ありがたかった。

    ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

     少し話をした後、幸織たち三人は長居をせずに荒士の部屋を去った。
     今日会ったばかりの異性だ。荒士がとびきりのハンサムとかならともかく、彼はその手の男子ではないので長々と話し込んだりしないのは当然だったと言えよう。
     その点、幸織たちと入れ替わるように部屋を訪れた陽湖の場合は事情が違った。
    「荒士君、災難だったね」
    「別に事故ったわけじゃないぞ」
     心配そうに、ではなくニヤニヤと笑いながら言われて、荒士はムスッとした顔で陽湖に言い返す。
    「荒士君がドジ踏んだんじゃなかったら、戦ってもいないのに何故倒れたりしたの?」
     陽湖は相変わらず不真面目な笑顔だが、目が真剣まじになっていることに荒士は気が付いた。
     幼馴染みと言っても、実際に荒士が陽湖と一緒にいた時間は短い。出会った八年前から今日までの時間を全て合算しても、一年未満にしかならない。だがその長くない付き合いで、こういう目になった彼女に誤魔化しは利かないと荒士は良く知っていた。
    「実力以上の芸当をやっちまったからだな」
    「神鎧のこと?」
     荒士が表現をぼかしたにも拘わらず、陽湖は彼が何を言っているのかすぐに言い当てた。
    「神鎧の隠し機能を偶然引き出しちゃったとか?」
     荒士の口からため息が漏れる。彼は「処置なし」と言わんばかりに頭を振った。
    「陽湖……。その無駄に勘が良いところは直した方が良いぞ。その内きっと、災難を引き寄せてしまうから」
     荒士の口調は、憎まれ口という感じではなかった。結構真面目な忠告なのかもしれない。
    「はいはい、そういうのは良いから」
     しかし陽湖はまともに取り合わず続きを促した。――いや、要求した。
     陽湖の瞳が好奇心で爛々と輝いている。彼女は普段から、優しげな顔立ちの中で目力だけがアンバランスに強い。そのくっきりとした二重瞼に縁取られた双眸がますます強い光を放って、荒士に説明を迫った。
    「はぁ……」
     本当のことを話さなければ収まりそうに無いと覚って、荒士がため息を吐いた。
    「別に口止めされてはいないが、他の候補生には口外しないでくれよ」
    「約束するよ」
     陽湖の返事は調子が良すぎて、かえって疑わしい。だが正直にそれを口にすると面倒臭い展開になるのが分かり切っているから、荒士はさっさと陽湖の好奇心を満たしてやることにした。
     それが一番、被害が少ない選択肢だと彼は理解していた。
    「神鎧には三つのフェーズがあるそうだ」
     荒士は半ば諦めの心境で、光から聞いた神鎧の三フェーズについて陽湖に語った。
    「へぇ……。だからなのか」
     最後にSフェーズの説明を聞いて、陽湖は妙に納得した顔で何度も頷いた。
    「……何だよ?」
     自分に向けられた意味ありげな視線。荒士はそれを無視できなかった。
    「外見を変えられるバリアね」
    「バリア……。まあ、そうも言えるか」
    「だから荒士君が美少女になっていたんだね」
    「美……っ、ちょっと待て!」
     荒士がひっくり返った声で叫ぶ。
    「きゃっ! ……いきなり大声出さないでよ」
     咄嗟に両耳を押さえた陽湖が、恨めしそうな目付きで抗議する。その両目に薄らと涙が滲んでいるところを見ると、本気で驚いたようだ。
    「わ、悪い」
     荒士は慌てて謝った。
    「だが今のは本当なのか!?」
     しかしすぐに、血相を変えて陽湖に詰め寄る。――たださすがに声は押さえていたが。
    「本当って? 美少女だったってこと?」
    「そう、それだ」
     確かに荒士は、神鎧を装着した名月をモデルにした。
     名月の外見が美女と言って差し支えのないものであることも認める。
     だが荒士がモデルにしたのは全身像だ。顔まで参考にした覚えは無い。
     第一、神鎧装着時には顔の半分以上が隠れていて、細かな目鼻立ちまでは分からない。神鎧を暴走させたあの時も、荒士は名月の顔まではイメージしていなかった。
    「本当だよ」
     必死の形相をした荒士に、陽湖は呆気ない程あっさり頷いた。
    「遠目にもはっきり分かった。鼻から上はシールドに隠れていたけど唇や頬から顎のラインが女の子だったし、背が少し縮んで身体付きが華奢になってたね」
    「そんなにか……」
     荒士が椅子の背もたれに身を預けて天井を仰ぐ。
    「F型適合者が女性ばかりだったのは、元々の機能が女子用だったからなのかな? だから男子が身に着けると、装着者の方が鎧に合わせて変化しちゃうとか?」
     しかし陽湖のこの呟きに、荒士はバネ仕掛けの人形じみた動きで背もたれから背中を離し、身体をゾクッと震わせた。
     体型が女性になっていたのは、あくまでも荒士が名月をモデルにして神鎧装着のイメージを固めたからだ。白百合と光の説明を考え合わせて、荒士はその結論にたどり着いた。
     だが元々F型の神鎧には、女性形がデフォルトで設定されているとしたら……。
    「……不吉なこと言うの、止めてくれよ。他人から見た外見が変わるだけで肉体が変化するわけじゃないと教官は断言していたぞ」
     そして、自分に言い聞かせるような口調で陽湖の推測を否定する。
    「それ、本当に信じてる?」
    「…………」
     しかしこう問い返されて、荒士は返事に詰まってしまった。
    「でも、そんなに心配要らないかもね」
     強張ってしまった荒士の顔を見て、陽湖がフッと表情を緩める。強い圧を放っていた両眼も、優しい目付きに変わっていた。
    「きっと大丈夫だよ。神様は荒士君に戦士以外の仕事もさせたいみたいだし。女の子になっちゃったら台無しだもんね」
    「……おい、いきなり何を言い出す」
     荒士が半眼にした目を陽湖に向ける。口調はいたわりに満ちているが、言っている内容は素直に受け取れないものだった。
    「えっ? だって女の子同士じゃ子供は産めないでしょ。幾ら神々の技術でも無理だと思うな」
    「だから種馬になるつもりはないと言っただろーが」
    「それこそ荒士君の意思は余り関係無いんじゃないかなぁ」
    「…………」
     今度こそ荒士は、陽湖の意見に反論できなかった。

     荒士の不安を煽るだけ煽って、陽湖は自分の部屋へ戻った。
     最終的に彼女は、神々が荒士の性別を変更するような真似はしないと理由付きで結論付けた。
     教官の白百合は、神鎧は肉体に悪影響を与えないと断言した。
     医務室にいた鹿間多という女性職員は、外見が変わったように見えるだけで、中の人間に変化は無いと教えてくれた。
     陽湖の無責任な、、、、推理はともかく、ディバイノイドの白百合が嘘を吐くはずはないし――ディバイノイドは嘘をつけるということを、荒士はまだ知らない――、医務室の職員がいい加減なことを教えるとも荒士には思えなかった。
     だが疑心暗鬼は時として理屈を超える。「もしかして」という疑念が荒士の意識にこびりついてしまっていた。
     誰かに相談して、心に蟠る黒い靄を晴らしてもらいたいという欲求に彼は取り憑かれた。
     軟弱、と誹ることはできまい。
    「神々の戦士」の候補に選ばれたといっても、荒士はまだ十六歳の少年でしかないのだ。
     しかし、誰に?
     教官の白百合は論外だ。神々の技術に対する不信感を、神々の忠実な僕というより神々の端末でしかないディバイノイドに打ち明けられるはずがない。
     神々は個人の疑心など気にしないかもしれない。むしろ、全く気に掛けない可能性の方が高いと荒士は思う――理性では。だが理性以外の部分で、そんな冒険はしたくないと彼は考えた。
     では入学式で演壇に立った、あの上級生はどうだろう。チューターは新入生の相談に応じると、あの美しい年上の少女は言っていた。
     だが同時に、チューターである自分たちは教官の補佐役とも言っていた。彼女に相談を持ち掛けるのは、ディバイノイドに相談するのと同種のリスクがあると考えるべきだろう。
     それにまだ候補生でしかない彼女に、自分が抱えている不安を理解できるかどうかも怪しいと荒士は思った。
     残るは、医務室で彼の面倒を見てくれたあの女性職員か。荒士は彼女の姿を脳裏のスクリーンに映し出した。
     二十歳を過ぎているはずなのに女子高校生でも通用しそうな童顔。
     スレンダーな体型でありながら包容力を感じさせる、優しげな雰囲気。
     親しみの持てる近所の可愛いお姉さん、あるいは面倒見の良いかわいい系の先輩といった印象の女性だ。
     こうして考えてみると、教官や教官補佐という立場を抜きにしても相談相手として候補に挙げた三人の中では、一番心理的な抵抗が小さい相手だった。
     荒士はインフォリストを起動した。まだまだ慣れない思念操作で連絡先リストを呼び出す。
     あの女性職員、「鹿間多光」の名前は登録順でソートした最新行にあった。医務室から退出する時に「気になることがあったら何時でも連絡してね」と言いながら彼女が一方的に送り付けてきたものだ。その時は特にありがたいとも迷惑とも思わなかったが、今になってみれば好都合だった。
     しかしいざ連絡を取ろうとして、荒士は戸惑ってしまう。
     そろそろ夕食時という時間帯を抜きにしても、友人でもない年上の女性にいきなり話し掛けるのは礼儀としてどうなのだろう。――そんな迷いが彼の心に生じていた。
     彼はインフォリストの幻影モニターをメール画面に切り替えた。
     机に向かい、ノック式のボールペンを手に取る。
     メール画面は机の天板に重なっている。荒士はその画面の中で新規作成を選び、芯を出していないボールペンを走らせた。
     インフォリストは、口述でも念じるだけでも文章を作成できる。と言うか、思念で全ての操作を済ませるのが本来の使い方だ。しかし荒士は思念による操作方法に慣れていない。手の動きで操作する方が、今はまだ簡単だった。神々の技術は使い方を一方的に押し付けるのではなく、そういう使用者のニーズにも対応していた。
     荒士が動かすペン先に従い、文字が綴られていく。分からない漢字は、仮名を書き込んだ後から変換することも可能だ。そうして荒士は、光宛てのメールを書き上げた。
     内容は「明日、相談に乗って欲しい」。
     メールを送ったことで、荒士は気持ちが少し楽になった。不安はまだ解消されていないが、取り敢えずアクションを起こしたことでいったん棚上げにする心理的な余裕ができたのだ。
     余裕ができると、空腹に気付いた。彼は食堂に向かうべく席を立った。

     なお翌日の教練後に荒士から相談を受けた光は、彼の不安を朗らかな笑顔で吹き飛ばした。