• NOVELS書き下ろし小説

  • リッパーvs石化の魔女

    [5]『擬態』

     

     十月十四日、日曜日の夜。
     多中たなか少佐はウイスキーを丸々一本空けても、まだ眠りに就くことができずにいた。
     理由は言うまでもなく、石猪いしい少尉暗殺の報を受け取ったからだ。
     米津べいつ大尉に続き、今や唯一残った部下と言っても良い石猪いしい少尉の殺害を、多中たなかは『摩醯首羅まけいしゅら』に先手を打たれたのだと理解した。
     不眠は「次は自分だ」という恐怖に取り憑かれた所為だった。
     彼が懐いた恐れは、全くの見当違いというわけではない。米津べいつが殺されたのは『摩醯首羅まけいしゅら』――司波しば達也たつや暗殺計画とは無関係だが、石猪いしいは確かに達也たつやの暗殺を阻止する目的で命を奪われた。今日の暗殺に司波しば達也たつやの意思は作用していないが、石猪いしいを殺したのは達也たつやに与する者たちだ。
     そして何より、暗殺者は多中たなかをターゲットに定めていた。
     今の多中たなかに、不安を分かち合い助けを求めることができる相手はいない。
     人道にも軍の規則にも反する人体実験に主導的な立場として関わり、多くの貴重な魔法師を浪費してきた――無駄に死なせた例もあれば、死んでいないだけ、という境遇に落とした例もある――多中たなかが、今日まで罰せられずに地位を保っていられたのは、国防軍内の権力闘争を巧みに利用してきたからだ。
     彼はこの夏まで、上手く勝ち馬に乗ってきた。普通では手に入らない違法実験の成果を手土産に、戦力を求める野心家の庇護下に収まっていた。
     しかし、対大亜連合強硬派――酒井さかい大佐の下についたのが決定的な誤算であり運の尽きだった。
     酒井さかい大佐の失脚より、多中たなかは身を守る術を失った。これまで彼の武器となっていた違法人体実験は、今や彼の首を絞める縄となった。
     いつ罪に問われるか分からない。
     もしそうなったら、自分一人では死なない。人体実験に関与した高官の名前を全てぶちまけるつもりだった。
     しかし、そのリスクは相手も承知しているだろう。となれば、自分を待っているのは彼らによる口封じ。
     多中たなか酒井さかい大佐失脚からずっと暗殺におびえていた。それが遂に、具体的な影となって身近まで迫ってきた。――今の多中たなかは、そういう心理状態だった。

    ◇ ◇ ◇

    「……気楽なもんだな。何者とも分からない賊が侵入した店にのこのこやって来るとは」
    「自分が狙われているとは思っていないのでしょう」
     有希ゆき鰐塚わにづかは違法カジノを抱えるプールバーに入っていくナオミ・サミュエルの背中を見ながら、呆れ声で言葉を交わした。
    石猪いしいが殺されたのにか?」
    「黒幕を気取っている小悪党は、自分が矢面に立たされる可能性を考えないものです。ナッツもそういう輩は、何人か見てきたのでは?」
    「まあ、確かにそういう奴らは何人も知っているが……。それにしたって、もう少し用心するもんじゃないか?」
     今日は十月十九日、金曜日。有希ゆきがバーに忍び込んでから、ちょうど一週間後。プールバーの営業が再開したのは昨日のことだ。「もう少し用心するもんじゃないか?」という有希ゆきの疑問は妥当なものと言えよう。
    「もしかして、ナオミ・サミュエルはギャンブル依存症なんじゃねえか?」
    「そうかもしれませんね」
     有希ゆきの推測に、鰐塚わにづかが気の無い相槌を打つ。お座なりなその態度を、有希ゆきは気にしなかった。
     今重要なのはナオミ・サミュエルが地下の違法カジノに入ったかどうかだ。その背景となる彼女の性癖はどうでも良いことだった。
    「じゃあ、行ってくる」
    「作戦開始のタイミングは早ければ二十分後、最も遅くて一時間後となる見込みです。引き時を間違えないでください」
    「分かっている。万が一、仕掛けの発動より先にまとが店を出るようなことがあれば、大人しく出直すさ」
     有希ゆきは注意を促す鰐塚わにづかに軽く頷いて、ワゴン車を降りた。

     今夜の有希ゆきのファッションは一見、絹に見える光沢豊かな生地で作ったチャイナドレス風の上衣にスリムパンツ、ヒールに武器を仕込んだエッジソールの靴という組み合わせで、大人っぽさと動きやすさを両立させている。フルレングスのパンツをはいているから、チャイナドレスと言うよりアオザイ風か。
     ただ、羽扇子を携えているのは明らかに何か勘違いしている。あるいは、東アジア文化を誤解している西洋人向けの演出かもしれない。
     もしそうだとするなら、それなりの効果があったと見るべきだろう。カウンターでカジノに入りたいと切り出した有希ゆきに、バーテンはチャイナドレス風の上衣と羽扇子をじろじろ見て笑顔で頷いた。多分有希ゆきを金持ち華僑の放蕩娘と勘違いしたのだろう。
     相手の勘違いもあって、有希ゆきは無事に地下カジノへの潜入に成功した。
     地下室の扉の先には、前回侵入した時とは打って変わって熱気が渦巻いていた。
     賑やかなBGMや電子機器の効果音は無い。
     室内に響く音はプレイヤーの歓声と悲鳴、罵倒のみ。罵倒も他のプレイヤーに対するものではなく、専ら神や悪魔を呪う声だ。
     有希ゆきはまず、ルーレット台に陣取った。そこで小出しにチップを賭けながら、こっそり周囲を窺う。
     ターゲットはポーカーテーブルにいた。ちょうど良い役で勝ったところなのか、ナオミ・サミュエルは派手に歓声を上げていた。
     有希ゆきは増えたチップを持って――有希ゆきがギャンブルに強いわけではなく、単なる偶然である――ポーカーテーブルに移動した。ナオミと背中合わせになる位置だ。
     ゲームはディーラーが客四人を同時に相手取る形式だった。どうやらこのカジノは、客同士の対戦にならないよう運営されている模様だ。勝敗がトラブルにつながるのを避ける為だろう。
     ここでも有希ゆきはチップを小出しにしながら、長くゲームを続けることを優先する戦術をとっていた。彼女の意識の半分以上は背後から聞こえてくる声に集中している。
     どうやらナオミも、順調に勝ち越しているようだ。これならまだ当分はテーブルを離れないだろう。
     有希ゆきとしては一安心だ。
     今日の計画における最大の懸念事項は、ターゲットが早々に店を出ることだった。後は仕掛けが発動するのを待つばかりだ。
     しかしここで、一つ計算違いが発生する。
     仕事をする上で必要になるかもしれないと、有希ゆきはギャンブルについても一通り教え込まれている。だがそれは、幼少の頃から自分でも知らない内に叩き込まれた忍びの技とは違って、亜貿社あぼうしゃに入ってから仕事の合間に覚えさせられた、付け焼き刃の知識だ。ギャンブラーとしては、素人以外の何者でもない。
     ところが、どういうわけかその素人の前にチップが積み上がっていた。
     有希ゆきの実力であろうはずがない。ビギナーズ・ラックというやつだろう。だが、ルーレットやスロットマシンならともかく――ちなみにこのカジノにはスロットマシンが置かれていない――ポーカーでチップが塔を作るような大当たりは、そうそうお目に掛かれるものではない。
     有希ゆきは図らずも、周囲の注目を集めてしまっていた。――ナオミ・サミュエルの注目も。
    「おめでとう! 貴女、すごいわ!」
     背後から祝福と賛辞を浴びながら、有希ゆきの心は後悔でいっぱいになっていた。たとえここから大負けして見せても、彼女の印象は薄れないだろう。
    (こっそり近づいてるのは、もう無理だな……。こうなりゃ、どさくさに紛れて仕掛けるしかないか)
     有希ゆきにできるのは、開き直って選択の幅が狭まったのを受け容れることだけだった。

     その後も有希ゆきは七割くらいの勝率で勝ち続けていた。ナオミも有希ゆきの戦績に刺激を受けたのか、一層ゲームにのめり込んでいる。結果的にターゲットの在店時間を引き延ばせたのは不幸中の幸いか。
     有希ゆきが入店してからおよそ四十分。
     ようやく彼女が待っていた騒ぎが起こった。
    『警察です!』
     カジノのマネージャーらしき黒服が英語で叫んだ。
     ざわめきがフロアに広がる。
    『一階のボーイが時間を稼いでいます。皆さんはこちらからご避難・・を! 直接店の外に出られます』
     客がチップを投げ捨て、マネージャーが案内した隠し通路に殺到する。
     有希ゆきはナオミ・サミュエルと逃げるタイミングを合わせるべく、周囲の状況を窺った。
     そこを不意に、背後から腕をグッと引かれる。
    「何をしているの!? 早く逃げなきゃ!」
     振り返った有希ゆきは、驚愕に目を丸くした。
     彼女の腕を引いたのは、他ならぬナオミ・サミュエルだった。
     ナオミはそのまま有希ゆきを抱き込むように引きずって、隠し通路に殺到している客の群れに突入した。
    「貴方たち、それでも男なの!? ここには、か弱いレディがいるのよ。順番を譲りなさい!」
     自分と同年代の身形が立派な紳士・・を怒鳴りつけ、人の壁をかき分けながら前に進もうとするナオミ。
    (「か弱いレディ」って、あたしのことだろうなぁ……)
     身長差の関係でナオミの腕の中にかばわれる格好になりながら、有希ゆきは心の中で呟いた。
    (参ったな。コイツ、利己的で高飛車なところはあっても本質的には悪人じゃないんだろうな)
     今も自分が先に逃げる為に有希ゆきを出汁にしている節が見られるものの、有希ゆきをかばおうとする行為に嘘は無い。おそらく、自分よりも小さく、弱い存在は守ってやらなければならないと本気で思っているのだ。
    (だけど悪いな。あたしは悪人なんだ。何せ、殺し屋だからな)
     有希ゆきはわざと足をもつれさせ、通路の床に倒れた。彼女を抱いていたナオミも、引きずられて倒れる。背後から押し寄せていた客が、ナオミに躓き彼女の背中に覆い被さった。絵に描いたような将棋倒しだ。
     とはいえ、避難客が何百人にも上るわけではない。
     カジノにいたゲストは精々三十人。
     有希ゆきとナオミの後ろにいたのは十人程度だ。将棋倒しといっても、大惨事には至らない。
     実際、のしかかってきた中年男がどいてすぐに、有希ゆきとナオミも立ち上がった。ただし、ナオミは有希ゆきに背負われて。
    「大丈夫ですか?」
     中年男がナオミに訊ねる。
    「大丈夫です。先に行ってください」
     ナオミの身体の下から有希ゆきが答えた。
    「警察が来ますよ」
    「あ、ああ」
     有希ゆきが付け加えた言葉に、中年男は躊躇いがちに通路の奥に進む。
     後続の男たちも、壁際に寄った有希ゆきを追い越していく。
     立ち止まってナオミに手を貸そうとする者は、それどころか怪我の具合を確認しようとする者も、誰一人としていなかった。
     後続の客が全て通り過ぎ人影が無くなったのを確認して、有希ゆきはナオミの死体を通路の壁にもたれ掛けさせる格好で床に下ろした。ナオミを引きずって倒れた瞬間、有希ゆき身体強化フィジカル・ブーストを発動して下になった体勢でナオミの首を折ったのだ。
     じっくりと観察されたらナオミが死んでいることを他の客に気付かれたかもしれないが、警察を恐れて逃げ惑うゲストにその余裕は無かった。
     ナオミ・サミュエルの変死を知れば一緒にいた東洋女のことを思い出す者もいるだろうが、その点について、有希ゆきは余り心配していない。今日、彼女は顔を見られることを前提の厚化粧をしている。化粧と言うより変装のレベルだ。他の客の記憶には派手なチャイナドレスと長く引いた赤いアイライナーの印象しか残っていないに違いない。
     しかしこれで幕が下りる程、有希ゆきの仕事は簡単なものではなかった。それはこの仕事に限ったことではなく、暗殺者稼業全般に言えることで、今回も例外ではなかった。
    「お客様、如何されましたか?」
     背後から掛けられた、店員の声。その声音は心配しているというより、迷惑そうな色合いが強い。警察に踏み込まれた状況で体調を崩すなど、確かに、店の者としては歓迎できる事態ではないだろう。
     しかし、迷惑を覚えているのは有希ゆきも同じだった。
    (――仕方が無い)
     有希ゆきは顔の下半分を覆うヴェールを素早く装着し、振り返りざまナイフを投げた。
    「――っ!」
     ナイフは狙い過たず、店員の喉を貫きその命を奪う。
    (どうせコイツらは縄張り荒らしで皆殺しになる予定だったんだ。あたしが片付けても文句は言われんだろ)
     実を言えば、一階に押し掛けている警官は偽物だった。
     所轄の警察署は有希ゆきの推測どおり、この店の経営者と癒着していた。鰐塚わにづかがその裏を取り、
    この辺りを縄張りにしているヤクザを通じて警察に圧力を掛けたのだ。
     ヤクザが警察を脅すなんてできそうもないように思われるが、今回のケースでは警察の側に違法カジノを目こぼししていたという弱みがある。
     それに、持ちつ持たれつは外国人犯罪者に限った話ではない。やり過ぎないヤクザは、やり過ぎる犯罪集団に対する抑止力という意味で警察にとって一定のメリットがある。
     今回有希ゆきたちが利用した「一家」は、麻薬売買に手を出さないという取り決めで所轄と密かな協力関係を築いているヤクザだった。
     所轄署による縄張り荒らし黙認は「一家」にとって裏切りであり、有希ゆきたちが手を借りるのは容易だったし、警察の妥協も引き出し易かった。
     偽警官は「一家」の構成員だ。そして今日、ここで何が起こっても、後で何人か適当に自首するだけで済むことになっている。
     ヤクザは違法カジノの関係者を皆殺しにする予定だったから、自首した者は死刑を免れられないだろうが、そこは本人たちも納得して手を挙げたはずだ。有希ゆきが気にすることではなかったし、彼らの運命に殺し屋が気を病むのは偽善というものだろう。
     とにかく、皆殺しは既定路線なのだ。有希ゆきが口封じを躊躇う理由は無かった。

     帰ってこない同僚の様子を見に来た店員を皮切りに、有希ゆきは地下カジノの従業員を手当たり次第、殺していった。わざわざ獲物を探しに行くような真似はしなかったが、出くわした相手は全て死体に変えた。
    「――っ」
     これで七人目。全て一突きで、誰にも声を上げさせていない。ただ、返り血を浴びるのは避けられなかった。
    (……このままじゃ、表を歩けないな)
     目撃者になりそうな・・・・・店員を粗方片付け、そろそろここから逃げ出そうか、と考えたところで、有希ゆきは自分のひどい格好に気付いた。
     血塗れになったチャイナドレスなど、目立つどころの騒ぎではない。十歩も歩かない内に通報されること、間違い無しだ。
    (確かこっちに……ああ、あった)
     彼女が探していたのは、女子用トイレだった。彼女はもう一度フロアを見回して、「Ladies」というプレートが貼り付けられた扉を引いた。
     中には個室が二つと手を洗う為の洗面ボウル、鏡が二つずつ。
     有希ゆきは手前側の鏡の前に立って、蛇口を捻った。彼女はまず手袋をはめたままの状態・・・・・・・・・・・で手を洗い、表面に付いた血を落として水気を丁寧に拭い取る。そして手袋を脱がずに顔の下半分を隠すヴェールを外した。
     そこで彼女は振り向きざま、隠し持っていたスローイングダガーを投げた。
    「ぎゃっ!」
     ダガーはそっと開かれた個室のドアの隙間から突き出された手に突き刺さっている。
     音を立てて床に落ちた物は、小型の自動拳銃だ。
     有希ゆきは個室の扉を引き開け、背後から彼女を狙い撃とうとした人物を引きずり出した。
    「変態か――?」
     有希ゆきが声と視線で軽蔑を露わにする。女子トイレの個室から「ぐうう……」と苦鳴を漏らしながら転がり出てきたのは、中年の男性だった。
     スタイルはすっきりしておりルックスもダンディで「中年」と言うより「ナイスミドル」というフレーズの方が似合いそうな外見だったが、女子トイレに潜んでいたという事実が全てを台無しにしていた。
    「んっ? お前は……」
     その変態の顔に、有希ゆきは見覚えがあった。中年男性は、先程カジノの客に避難を呼び掛けたマネージャーだった。
     どうやら逃げ遅れて隠れていたらしい。
     あるいは――、
    「……もしかして、あの通路からは逃げられなかったのか? 外につながっているというのは嘘だった?」
    「そ、そんなことはない!」
     有希ゆきが漏らした疑念を、マネージャーは慌てて否定した。
    「あの通路が外につながっているのは本当だ」
    「だったら何故お前はあそこから逃げなかったんだ?」
    「それは……」
     マネージャーが口ごもる。それだけで、あの通路がろくな場所につながっていないと分かった。
    「……まあ、良いか」
     しかし有希ゆきはそれ以上、追及しなかった。
    「信じてくれるのか?」
     マネージャーが、縋り付かんばかりの態度で問う。
     それに対して、有希ゆきは冷たく答えた。
    「いや、どうでも良い」
     彼女の右手には、何時の間にか二本目のダガーが握られていた。
     有希ゆきの足が弧を描く。
     中段蹴りの軌道で放たれた一撃は、両膝を突いていたマネージャーの顔を直撃し、彼を再びトイレの床に転がした。
     有希ゆきの右手が翻る。
     ダガーは、彼女の指の間からマネージャーの喉へ移動していた。

     有希ゆきはマネージャーを一瞥して間違いなく死んでいることを確認すると、鏡に向き直った。
     左手で、返り血が撥ねている長い髪を掴み、右手で頭皮の辺りをまさぐる。
     右手を髪の中から抜き、有希ゆきは髪を掴んだまま左手で引っ張った。
     長い髪がずるりと落ち、その下からタイトに纏めた有希ゆき本来の髪が現れる。
     血が付いていた髪は、汚れることを見越したウィッグだったのだ。
     次に有希ゆきは、チャイナドレス風の上衣を両手で掴み、勢いよく左右に引っ張った。
     引き裂くように脱ぎ捨てられたチャイナドレスの下は、スリムパンツと合わせた暗い色の、ピッタリした薄いシャツだった。
     有希ゆきは鏡で返り血が残っていないことを確認してメイクを落とす。その後、カツラ、ヴェール、チャイナドレスを纏めてマネージャーの死体に被せ、火をつけた。
     急ぎ足で彼女がトイレを出た直後、スプリンクラーが作動した。
     有希ゆきが火をつけた小道具は燃え広がる程の派手な炎を上げなかった代わりに、降り注ぐシャワーを浴びても燃え続けた。後に残ったのは、一切の手掛かりにならない灰と、人相が分からなくなるまで顔を焼かれた死体だけだった。