• NOVELS書き下ろし小説

  • 【プロローグ】

     多元宇宙マルチバース
     無数の単宇宙ユニバースを包含する高次元空間。
     単宇宙ユニバースは三次元空間と一次元時間から成っている。
     その一方で、多元宇宙マルチバース単宇宙ユニバースからのみ構成されるものではない。
     単宇宙ユニバース単宇宙ユニバースの間には三次元空間としての構造も時間の流れも持たない虚空、『次元狭界』が存在する。
     空間も時間も定まっていない虚空に物質は存在しない。物質が時空に固定されたエネルギーである以上、空間的にも時間的にも座標を特定できない次元狭界においては、物質は存在できない。
     ところが「今」。
     次元狭界で刃を交える二つの人影があった。
     一方はクラシック、あるいはファンタジー映画的でスマートなフルプレートアーマーを着用し、猛禽類を模した兜を被っている。身長は百八十センチ強か。
     もう一方は近未来的、あるいは特撮ドラマ的なボディスーツの上に胸甲や手甲などの装甲を着け、仮面で顔を隠しヘルメットを被っている。身長は百七十センチ台後半。
     クラシックな方の戦士の得物は刃渡り一メートル前後の長剣。
     近未来的な方の戦士の得物は全長二メートル半の大身槍。
     槍兵が繰り出す大身槍の穂先を剣士がブレイドの側面で逸らす。
     剣士が振るう長剣の一薙ぎを槍兵は後退して躱した。
     睨み合う剣と槍の戦士。
     二人は上も下もない虚空で、あたかも同じ地面に立っているかのように対峙している。
     彼らが手を止めたのは一瞬だった。
    「コォミヤァ、シュウスケェェェ!」
     槍兵が吼える。
    「アァラシマァ、コォウジィィ!」
     剣士が応える。
     穂先と刃先に討滅の光を宿し、二人の戦士が激突する。
     幾度目になるか分からぬ激突を繰り返す……。
     ………………。
     …………。